嵐一過蝉の亡骸武者のごと     藤野 十三妹

嵐一過蝉の亡骸武者のごと     藤野 十三妹

『この一句』

 ちょっとびっくりするような詠み方である。「武者のごと」と尻切れ蜻蛉のような止め方も例が無いではないが、普通はあまりやらない。それに、「武者のごと」とは一体どういうことなのか。多分、武者の如くいかめしく、堂々とした様子を示そうとしているのだと思うが、もう一つはっきりしない。
 つまりは最初から最後まで人目を引く言葉をつらね、何とも大仰なのだ。というわけで、句会ではこの句は採らなかったのだが、何人かがかなり強く推した。そこで改めて読み返してみると、なるほど棄てがたい味わいのある句だと思うようになった。
 台風一過の庭か公園であろう。最後の最後まで幹にしがみついて頑張っていた秋の蝉が、力尽きて吹き飛ばされ、そこかしこに転がっている。その骸を仔細に見つめると、中々立派な面魂だ。仰向けになったまま息絶えている姿は、まさに面頬(めんぼう)をつけた鎧武者そのものである。うつ伏せになっているのはまるで生きているようだ。戦い済んだ関ヶ原といったところか。(水)

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