靄晴れて突如広がる花野かな     前島 厳水

『おかめはちもく』

靄晴れて花野豊かに広がりぬ     前島 厳水

 句を見た時、「いいな」と思ったが、選べなかった。「突如」のためである。靄(もや)や霧が急に晴れるとは思えなかったのだ。突風が吹けば、あり得るだろうが、風があればもともと、靄は立ち込めないのではないか。靄がだんだん薄くなり、花野がゆっくり現れて行く、という風に詠みたかった。
 靄は朝靄なのだろう。夜明けが朝に変わっていく頃、靄や霧は徐々に退散していく。私の記憶にあるのは美ヶ原、蓼科の八子ヶ峰高原。吟行で行った尾瀬では、ロッジの窓から心ゆくまで眺めたものである。靄が晴れ、周囲の風景が広がって行く中で、単なる草原とは違う、花野の多様さを表現したいものだ。
 「靄晴れて花野豊かに広がりぬ」。これでいいのではないだろうか。靄がゆっくりと薄れて行く様子を描くなら「花野静かに」も悪くない。最後に一つ。「霧」ではなく、「靄」としたのは、季重なりを避けるためかも知れない。このような場合、私は「霧」でかまわないと思うが、原句の「靄」を尊重した。(恂)

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