缶ビール夫婦で分かつ二対一     井上庄一郎

缶ビール夫婦で分かつ二対一     井上庄一郎

 結婚当初は夫が相当な飲兵衛、妻はアルコールが全くダメ、というお二人だったに違いない。しかしあれほど飲んでいた夫も、年とともに酒量を減らして行くのが自然の流れである。さらに定年を過ぎて、外で飲む機会がめっきり減っていく。やがて夫の缶ビール一個が、晩酌の定番となっていった。
 ある日の夕食時、妻が「私も少し頂こうかしら」と言い出して夫はびっくり。妻は友人との付き合いで、「ビールなら少しくらいは」になっていたのだ。夫が一口分だけコップに注いで渡すと「あら美味しい」とにっこり。この日、缶ビールの三分の二が夫、妻が三分の一とする晩酌の慣わしが成立した。
 さらのその後の夕食どき、夫はもっと飲めそうな妻を見て「半分ずつにしようか」と提案。しかし妻は夫に残る若さのことを知っている。やはり私たちは夫唱婦随でなくっちゃ、と考えながら、「いいえ、まだこのままで行きましょう」と笑顔で受け流したのであった。よきかな、ベテラン夫妻の風景。(恂)

この記事へのコメント