夕焼けを背に街宣車軍歌吠ゆ 高橋 ヲブラダ
『この一句』
人間には欲があり、人間の集団である国は欲の塊となる。欲は個々人にとっても国家にとっても進歩発展の原動力となるのだが、抑えが利かなくなるのが恐ろしい。「隴を得て蜀を望む」という言葉がある。後漢の光武帝が隴(ロウ、甘粛省南東部)を平定して、さらに蜀(四川省)まで手に入れようとしたことから来た言葉だが、とにかく欲には際限が無い。
中国は南シナ海の領有権を強引に主張、仲裁裁判所(国際司法裁判所)の判決に従わず、埋め立てを続けたりしている。また日本固有の領土であり実効支配している尖閣諸島に艦船を派遣、示威行動を行っている。一方ロシアは日本の領土である北方四島を占領したまま返そうとしない。両国ともあれほど広大な国土を抱えているのだから、こんなちっぽけな島はどうでも良さそうなものだと思うのだが、やはり「望蜀」の思いは断ちがたいのだ。
こうした両大国の動きにいらいらを募らせる日本人が多くなっている。その空気に乗って、日本も正式な軍隊を持ち交戦権をうたった憲法を持とうではないかと唱える向きが増えてきた。しかし、もし日本がそうなれば、二つの隣国はさらに対日攻撃力を強め、それに対応して日本の軍備増強が行われ・・・、八、九十年前に逆戻りである。赤々と夕陽に照らされ大音量で軍歌を流して突っ走る街宣車に眉をひそめる庶民が、結局は泣きを見る。(水)
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