来客は蜘蛛の一匹土用の日     水口 弥生

来客は蜘蛛の一匹土用の日     水口 弥生

『季のことば』

 「土用」というのは中国古代の陰陽五行思想から出たもので、春夏秋冬各季節の末期十八日間、すなわち各季節の特徴が最もよく現れる時期を示している。だから立夏の前十八日間は春の土用であり、立秋前の十八日間が夏の土用となる。同じように秋にも冬にも土用がある。しかしいつの間にか土用と言えば、夏の土用を指すようになった。
 農業中心の昔の日本では、この時期は植田の稲がしっかりと根付き盛んに伸び始める時期で、農家としてはほっと一息つく頃合いだ。梅雨が明けて暑さこの上なく、春からずっと続いた農作業の疲れがどっと出る頃でもある。というわけで、この期間中は「土いじり控えるべし」と誡められたり、土用灸や夏の湯治、さらには土用鰻、土用蜆、土用卵など滋養豊富なものを食べて養生を心掛けることが奨励された。つまりは大昔の日本にもささやかな「夏休み」があって、それが土用だったのである。とは言っても十八日間も休んだわけではない。ほんの二、三日で、すぐに草取りに精出さねばならなかった。
 これは現代の土用の一日。暑くて蒸し蒸ししてやり切れない。どこへ出かける気にもなれずに部屋に籠もっていたら、何か動くものがいる。あらクモじゃないの、お前一体どこから入ってきたの。蜘蛛を相手のおしゃべりも退屈しのぎの一環。(水)

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