夏至の空埋め尽くすほど衣干す     中村 哲

夏至の空埋め尽くすほど衣干す     中村  哲

『季のことば』

 夏至は6月21日頃で、梅雨の最中である。太陽が黄経90度に達し、北半球では昼が最も長くなる日と言われているのだが、大概は雨降りか、一日中分厚い雲に覆われ、お日様を拝めることは少ない。それがめずらしく晴天の夏至に恵まれたというのである。
 どの家もお母さんたちが一斉に洗濯物を干し始めた。「部屋干しでも臭わない」などと宣伝している洗剤もあるけれど、やはりお日様に当てた洗濯物の気持良さは格別なのだ。というわけで、団地などはまさに満艦飾となり、壮観この上ない。
 石田波郷と戦前に俳誌「鶴」を創刊し、波郷没後それを受け継いだ石塚友二に、「下町の十方音や梅雨晴間」という句がある。これも久しぶりの梅雨晴れに四方八方賑やかになったという面白い句だ。
 友二句が聴覚であるのに対し、こちらは視覚。忘れていた青空を仰いでみんな大喜びしている様子が伝わってきて、読んでいるだけで気分が爽やかになる。(水)

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