夏至の夜やことばを交はす牛と馬     大下 綾子

夏至の夜やことばを交はす牛と馬     大下 綾子

『季のことば』

 「夏至」を初めて句に詠んでみて、最も難しい季語の一つだと感じた。北半球では一番日が長く、夜が短い日なのだが、その前後の日でもほぼ同じである。暑い日もあれば、涼しい日もあり、夏休みはもう少し先のこと。雨が降れば梅雨、晴れたら梅雨晴れで、「夏至の日だから」ということにはならないのだ。
 この句を見て「なるほど、このような捉え方があるのか」と感心した。夏至は不思議な日なのである。太陽は最も真上に上り、翌日から僅かずつ元に戻って行く。なぜなのかは地球物理学や天文学で説明出来るはずだが、その先にある更なる「なぜ」については、「神のなせる業」にならざるを得ない。
 この夜、牛舎の牛と厩の馬が何やら話している様子。見回りの人が耳を澄ますと、餌や運動不足の不満をぶつぶつ言っていたのだが、話題はやがて前世や来世のことに移って行った。夏至の夜なら有り得ることだろう。その夜は不仲な人間の夫婦も、優しい言葉を交わしたのではないだろうか。(恂)

この記事へのコメント