ただそつと茶托に乗せて新茶出す 金田 青水
『この一句』
不思議な句である。茶卓に乗せてそっと新茶を出したのだという。普通なら、もう少し何かを、例えば誰が誰に出したのか、朝なのか、夜なのか、といった具体的なことを詠み込みたくなるものだ。ところがこの句は、そういう部分をそぎ落としてしまった。だから却って気になってくるのだろう。
句会では零点であった。作者は五句投句のうちの三句で点を獲得している。中に面白い句もあり、合評会で話題になっていた。しかし会報が届いて作者の全句を眺めていたら、何も詠んでいないようなこの句が気になって仕方がない。遂に「みんなの俳句」に取り上げるのは「これだ」と決めてしまった。
奥さんが夫に新茶を出したのである。茶卓に載せ、無言でそっと卓に置いた。この朝、ちょっとした口喧嘩があった。以来、夫は一日中、口をきいていない。ところが茶の香りが漂うと、夫は「これ、新茶か?」・・・。私ならこうなるところだが、人それぞれ「自分の場面」を思い描くのではないだろうか。(恂)
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