散歩道我が家のつもり柿若葉     大平 睦子

散歩道我が家のつもり柿若葉     大平 睦子

『この一句』

 散歩道というものは、自然にルートが決まって来る。多い人でも東西南北四方向、北は急な上りがあるから止めて三方向、東は繁華街があって人通りが多いからあまり行かないと二方向に決める人もいる。作者はどうやら一方向、毎日同じ道を散歩しているようだ。
 三百六十五日同じ道を歩いていると、次はどこを曲がるなどと意識せず自然に足が動く。途中の景色もすっかり頭に入っている。今日はあの垣根の山茶花が咲き出しているはずだ、公園の桜がもう満開だろう、あの家の軒下の燕の雛はそろそろ巣立ちかなどなど、季節の移り変わるたびに現れる動植物も脳内カレンダーに刻み込まれている。この道は、云ってみれば我が家の庭も同然。
 今日は清清しい陽気だ。予報で夏日と言われていた割には爽やかな風が吹いている。真っ青の空に、大きな柿の木が立ち上がり若葉を茂らせている。薫風に揺れる柿若葉を透かして射し込む光が路上にちらちらと小波を描く。実に気持ちが良い。なんだかいいことがありそうな予感がする。(水)

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