夕立の鍵形に行く城下町     中村  哲

夕立の鍵形に行く城下町     中村  哲

『この一句』

 軽妙でウイットに富んだ句である。「ウイットに富む」というと、得てして洒落てはいるが底の浅い嘘っぽい句になりがちなのだが、これは古い城下町では実際に出会す光景であり、しっかりした感じがする。
 城下町の道筋はすぐに突き当たりになって、なかなか真っ直ぐに行けないように拵えてある。敵に攻められた時に一気に城に突っ込まれないようにとの慮りであろう。そういう城下町を歩いていたら俄の夕立。急いで突き当たりを曲がったら、夕立が追い掛けてきた。あたかも夕立が鍵形に降っているようだというのである。
 この句を見た時、天守閣から夕立の城下町を見下ろしているような気分になった。鍵形の道を人々が突然の雨に右往左往しているのである。
 実にいいところを詠んだものだと感心した。作者は新聞社の編集局整理部一本を貫いた根っからの編集記者。取材記者の書いてきた原稿をさっと読むと、素早く適確な「見出し」をつける。その記事を生かすも殺すも、ひいてはその日の新聞全体の出来具合を左右する重要な仕事だ。これで培った当意即妙の腕を、句会デビュー早々に発揮した。(水)

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