つつじ散り社は元の緑かな 澤井 二堂
『この一句』
「社」とあって「つつじ」とあるから、躑躅祭で有名な文京区の根津神社を詠んだものであろう。毎年四月初めからゴールデンウイークの終わりまで約一ヶ月間、谷間の地形を生かした段差のある苑内には、数千本のつつじが色とりどりの花を次々に咲かせる。
祭の期間中、神社境内は言わずもがな、地下鉄根津、千駄木両駅はじめ不忍通りは見物人で一杯。いわゆる「谷根千」人気もあって、通りの両側ばかりでなく、入り組んだ細い路地にも人波があふれる。おかげで付近の飲食店や商店は大賑わいで相好を崩すが、住民のなかには「騒がしくって、うんざりです」とこぼす人も多い。
この句は、そんな大騒ぎの一ヵ月が過ぎ、元の閑寂を取り戻した神社の様子を詠んでいる。やはりここの住人の句だと分かって納得した。地元が賑わうのは結構だと思いながらも、この騒ぎはなあ、はてさて・・といった心情が滲み出ている。
「静けさ取り戻す」などと言わずに、「元の緑」と詠んだのはなかなかの腕前だなと思った。(水)
この記事へのコメント