濃淡の木々に薄暑や立石寺 吉田 正義
『季のことば』
この時期、木々は日に日に葉の色を変えながら成長していく。淡い緑が濃くなったり、赤みを増したりしながら、硬い青葉に変じ、陽光をてらてらと反射させるようになる。こんな様子を句に詠む時、まず思い浮かぶ季語が「青葉若葉」のはずだが、この句は木々の濃淡の中に「薄暑」を見出した。
ユニークな視点ではあるが、句会の兼題「薄暑」によって生まれたに違いない。作者はどこかに薄暑めいたものがないか、と探索の目を光らせていた。若葉にはまだ春の雰囲気が残り、青葉には盛夏の勢いがあった。この状態こそまさに・・・。薄暑に至る思考を忖度すれば、こんな風になるかも知れない。
立石寺は芭蕉の「閑かさや」の句で知られる「俗称・山寺」(山形市)のこと。俳句愛好者を初め参拝者の引きも切らない超有名寺である。私もまた「木々の濃淡」の語から、断崖と言えるほどの山上にある寺の薄暑を思い浮かべることが出来た。岩にしみ入る蝉の声が聞こえるのは、もう少し先だろうか。(恂)
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