酒一合菜飯に添えて父送る     中沢 義則

酒一合菜飯に添えて父送る     中沢 義則

『この一句』

 粛然と襟を正す追悼句であるが、陰々滅々とした感じがしないのは、やはり「菜飯」という季語の持つふんわりとした雰囲気のおかげであろう。
 炊き上げた菜飯を茶碗によそい、そこにお酒を一合添えて供えたというのである。故人の好物だったに違いない。つつましく一合の酒と菜飯ということで、故人の人柄が遺憾なく伝わって来る。恐らく世渡りはあまり上手ではなかったが、仕事を実直にこなし、家族には不自由を感じさせない一家を構えたお人なのではないか。退職後はそれこそ悠々自適の老後を過ごされたのであろう。
 両親や兄弟姉妹を悼む句はなかなか作りにくい。どうしても感情移入過多となり、センチメンタルな句になりがちである。本人としてはいくら悔やんでも悔やみ足りない気持なのだが、感傷が過ぎては作品たり得ない。
 しかしこの句はその点実にすっきりしている。「送る」というのが、まるで外国旅行に出かける父親を家族で送る晩御飯と思ってしまうような感じだ。しかししかし、二度読むとはっとする。あくまでも平常に詠んで、その底に万感の思いを潜ませている。(水)

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