龍天に昇る心地の退院日 高石 昌魚
『この一句』
一週間程度か、あるいはもっと長く病室に閉じ込められていたのか。とにかく解放された時の喜びは、まさに天に昇る心地であろう。それを兼題の「龍天に」に結び付けた。タイミングが良いと言えばそれまでだけれど、これほどうまくはまったのも珍しい。
作者は日経俳句会最長老で医学の泰斗。病気に関する知識は深い。しかし自分の身体となると別らしい。「全くそうなんですよ。お恥ずかしい限りですが、自分のこととなるとさっぱりで・・」と苦笑なさる。回りからせっつかれて検査したところ胃癌が見つかって、入院手術となった。
「手術は極めて簡単、術後の経過も良くて、すぐに退院となったのですが、よせばいいのに、あれやこれや好きなものを好きなだけ食べたのが悪くて、またおかしくなって再入院。医者をやっている息子に怒られました」と苦笑する。「まあこの年になれば癌の進行具合と寿命が尽きるのと、どちらが早いか分からないんですから、手術もへったくれもないんですが」とニコニコ。それでも「退院」は、たとえようも無い喜びなのだ。(水)
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