初つばめ里に生きとし生けるもの 堤てる夫
『この一句』
この句を見て、すがすがしい感じを受けた。よくもこんな風に素直に詠めるものだ、とも思った。「生きとし生けるもの」とは「この世に生きるすべてのもの」のことである。つまりこの句は初ツバメを見て、命あるもの全てを祝福しているのだ。そのような気持を、まともに表現できる人が羨ましい。
作者が分かって「やっぱり」と納得した。首都圏から「里」へ移住した人であった。その地はいま、緑に覆われ、鳥は囀り、蝶が舞い、やがて蛙が鳴き、夜は蛍が飛び交うようになるはずだ。そういう場所に住んでいるからこそ、全ての命を見つめ、自分の気持ちをけれん味なく表現できるのだろう。
ところで「生きとし」の「とし」とは何だろう。辞書によれば「と」も「し」も、「意味を強めるための助詞」で、古事記などにも用例があるという。句の言葉を調べて、古代の人の心が言語の仲立ちによって、現代にも生き続けていることを知る。俳句は真面目に作るべし、真面目に調べるべし。(恂)
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