朝の駅皆で見守る燕の巣 斉山 満智
『季のことば』
背中は青光りする黒、胸から腹は純白、喉元が鮮やかな紅色、外側の尾羽がぐんと長くいわゆる燕尾となる。実にスマートな鳥だ。三月に入ると間もなく南方から日本列島にやって来て、民家や商店の軒先などに巣を作り、子育てする。燕が町中を縦横無尽に飛ぶようになると春も本番である。
燕が人家に巣をかけるのは、鴉や鷲、鷹など猛禽類に襲われないようにとの腹づもり。人間に守ってもらう代わりに、田んぼや畑に飛んで来る虫をせっせと捕って作物を虫害から防ぐ。人類が農耕を始め定住するようになって以来、燕との共存共栄がずっと続いてきた。
それなのに近ごろの町や村の建物はコンクリート造で軒や庇が無い。商店や公民館などでは「糞害」を言い立てる人がいて、せっかく作った巣が撤去されてしまうことすらある。そして、田畑は農薬まみれで餌の虫がほとんど飛ばない。
辛うじて駅舎に巣を作った燕。幸いここの駅長は立派な人なのだろう、巣の下方に糞を受ける棚板をしつらえた。毎朝、通勤通学者が巣を見上げる。「今日は雛たち元気かな」。忙しない最中に、ほっと安らぎを感じる。(水)
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