朝ぼらけ漁火残す春の海 印南 進
『この一句』
俳句は作者の手を離れれば、独立した文芸的作品だと思っているが、仲間内の句会だとそうはいかないことにもなる。句の状況から「彼の句だな」「彼女の作風だ」などと推測し、その人の家族、立場、仕事などを思い浮かべてから選句の対照にしたりする。俳句は今なお座の文芸でもあるのだろう。
この句、誰の句とも判別し難い作り方である。しかし入院中の彼を見舞った人なら、何かを感ずるのではないか。江ノ電の駅から坂を上って五分ほど、高台にあるリハビリ専門病院の病窓から、鎌倉の海が一望の下にあった。毎朝、夜明け頃に起床し、海を眺めていたのだ、などと思ってしまうのだ。
推測は当たった。その日の句会では、季語を三つも入れた「病棟で正月豆まき雛祭り」という、おどけた感じの句も出していた。柔道マンの俳句未経験者ばかりを集めて三四郎句会を立ち上げ、幹事長役を務めていた作者は、自宅リハビリの時期に入った。句会への復帰もそう遠くないと思われる。(恂)
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