揚げ舟に木槌の音や水温む     岡本 崇

揚げ舟に木槌の音や水温む     岡本 崇

『この一句』

 「船」と「舟」の字を、われわれは自然に使い分けている。大きいのが船、小さいのが舟だ。しかし法規上はどちらも「船舶」だという。一方、辞書では「舶」は大型の船、「船」は大型小型どちらでも、「手漕ぎ」なら「舟」などとある。句会の合評会では「木造なら“舟”が相応しい」という意見もあった。
 句の舟は明らかに小型であり、木造船のはずだ。海辺か、池の辺か、川べりか。作者は散歩中なのだろう。「カン、カン」という木槌の音に目をやれば、引き揚げた舟の修理が行われている。おお、やっているな、と立ち止まる。その甲高い響きを聞けば、春が来たなぁ、水温む頃になった、と思うのだ。
 「この句、水辺の映像が浮かんできますが、木槌の音もはっきり聞こえてきます」(敦子)という評があった。みんなももちろん同感。思いつくままに春の音を挙げれば、囀り、春蝉の声、恋猫の声、雪崩の音、雪解川の音、卒業歌・・・。ボートなどを修理する木槌の音も、誰もがうなずく春の音である。(恂)

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