龍天にスカイツリーは影おぼろ 和泉田 守
『この一句』
スカイツリーなり東京タワーなり、すっくと空に立った建造物と「龍天に登る」を取り合わせるのは心情として極めて自然であり素直である。それ故にともするとありきたりな印象の句になってしまう。
その点、この句は確かにありきたりな感じは否めないのだが、それでもなおかつ「この雰囲気はいいなあ」と思う。それは、スカイツリーとその周辺をじっと見渡して、見たままの感じをまとめたことによる強さであろう。
時あたかも霞の季節。空気はぼってりとふくらんだような感じで、あたりの景色はパステル調。スカイツリーの影を写す堀割の水も澱んで、おぼろげである。ツリーのてっぺんを仰ぐとすっかり霞んでいる。こういう日に龍は天空に昇って行くのかしらん、などとぼんやり思っている。
「龍天に登る」などと現代俳人が見向きもしない季語を三月句会の兼題とした。みんな首を傾げるだろうな、一体どんな句が集まるのかな、と、正直いたずら心も少々働いていた。結果は大成功。バラエティに富んだ句が続々生まれた。これはそんな中で最もオーソドックスな大人しい句の一つである。(水)
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