凧上げの糸伸び切つて空の果て 後藤 尚弘
『季のことば』
歳時記などによれば凧上げは本来、子供の遊戯ではなく、村など集団同士が互いの大凧と糸を絡ませ、切り合う競技、行事だそうである。だから行われる季節は正月や冬ではなく、俳句では「春」の季語になっている、という説明もあるが、そうだろうか。第一、各地の大凧合戦は春とは限らない。
「凧抱いたなりですやすや寝たりけり」(小林一茶)。「凧ひとつ浮かぶ小さな村の上」(飯田龍太)。江戸時代から現代までの名句を調べて見ても、ほとんどが普通の凧を詠んでいる。だから・・・などと、異論を唱えても、正月の季語に変わるはずもなく、これからも凧は春の季語であり続けるのだろう。
しかし、かつての少年たちの心にあるのは間違いなく北風の吹きわたる空の凧である。誰が何と言おうと凧は正月のもの、という確信犯もいるようで、一月の句会に上掲の句が出てきた。しかしこの欄にすぐに登場させると「季が違う」と注意を受けるかも知れず、立春が来てから掲載した次第である。(恂)
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