指先に老いを押し込み手袋す 篠田 義彦
『合評会から』(三四郎句会)
信 指先に老いを押しこむとは、よくこういう表現を思いついたものだ。
照芳 しわくちゃになった自分の手を、手袋に押しこむんですね。
尚弘 指の関節が硬く太くなっている。「老いを押し込む」というのが何とも言えない。
崇 季語の本意を自分自身に引きつけて詠んでいる。
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暖冬と油断していたら、やはり寒中、ぐんと冷え込む。戸棚から引っ張り出したバックスキンの手袋は一年使っていなかったせいか、すんなりと通らない。指先をぐにゅぐにゅやりながらはめる。その時に、否応なく目に入る我が手、皺が寄り、節くれ立っている。老いの証拠を突きつけられた思いがする。
合評会では「言い過ぎではないのかな」という評があった。それもまた一種の賛辞だろう。「物忘れ」とか「道に迷う」といった常套文句ではなく、老いを手袋というものを持ち出して適確に詠んだ。しかも、老いの「覚悟」といったものを感じさせる秀句だ。(水)
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