お神籤の小吉と出て冬桜       徳永 正裕

お神籤の小吉と出て冬桜       徳永 正裕

『この一句』

 これは「初神籤」なのだろう。それに「初詣」であったはずだ。普通ならどちらかの季語を用いるところだが、ふと顔を上げたら冬桜が目に入った。花は純白と思えたが、目を凝らせば蕊(しべ)のあたりに薄紅色が広がっている。天候は薄曇り、おお、これはいい、季語は「冬桜にしよう」と作者は決めた。
 もう一つ、季語を冬桜とした理由があった。お御籤は「小吉」だったのだ。お御籤は「大吉」が出るのが最もいいはずだが、近年は「小吉や中吉の方がいい」という考え方が広がってきたらしい。大吉だと「吉は出尽くした」「後は悪くなるばかり」などと言われるが、そういう理由だけではないかも知れない。
 小吉も中吉も「吉」の内である。人に目立たぬよう、小さな幸せを頂ければ、という考えも悪くない。ちらほらと咲き、長続きする冬桜はそんな感じがする。豪華な染井吉野や八重桜は確かに素晴らしいが、慎ましげな冬桜の風情も捨て難い。小吉と冬桜。淡彩の水彩画を思わせる取合せである。(恂)

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