千両に鳥除けかぶす師走かな       井上庄一郎

千両に鳥除けかぶす師走かな       井上庄一郎

『合評会から』(日経俳句会合同句会)

反平 千両の赤い色が見えます。鳥はあまり好まない実だが、この思いはよく分かります。
水牛 我が家にも千両があるが、正月の飾りにと、そのままにしておくと、歳末になると不思議にヒヨドリが来て食べてしまう。師走の句として面白い。
青水 野鳥は車輪梅もネズミモチも南天も・・・赤い実はすべて喰い尽してしまう。生き延びようと野の鳥は必死ですからね。この句、野鳥への愛情と大事な千両と、心の葛藤が見えます。
庄一郎(作者) この時期、庭の千両にビニール袋をかけますが、空気穴をあけるのが一仕事です。
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 「師走」はもちろん「千両」も季語。このような、季重なりの句は選ばない、と初めから決めている人がいる。しかし、師走の頃に野鳥が赤い実を食べること、千両は正月の生け花用として珍重されること、その二つの関係が句の眼目なのだ。季語は一つだけと決めてしまうと、句の本質が失われてしまうことがある。季重なりがいい効果を生むこともある。大らかな心で句を選びたいものだ。(恂)

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