秋桜育ち過ぎたる貸農園 杉山 智宥
『季のことば』
秋桜とはコスモスのことである。中南米原産のキク科一年草で、痩せ地にも育ち、こぼれ種で毎年生い育つ丈夫な草花。明治初年に日本にもたらされ、瞬く間に全国に広まった。秋桜という素敵な名前を付けられて、これが俳句にしばしば用いられるようになった。そして、1977年、さだまさし作詞作曲で山口百恵が歌った「秋桜」が大ヒットして、「コスモスは秋桜っていうんだ」という知識が広まった。
俳句の世界では花と言えば桜を指し、桜は全ての花を代表するものとされている。そこで、秋に目立つコスモスを「秋桜」と言うようになった。ところがこの秋のサクラは可憐な姿とはうらはらに滅法強く、肥沃な土地であれば人の背丈を越すほどになり、根元は腕の太さになる。
耕作しないのに「宅地並課税」を逃れようと、ずるい農家は耕作地を装うためにコスモスを蒔く。同じ目論見で貸農園とした畑にも、シロウト園芸家がコスモスを植える。かくて大都市近郊は至る所コスモスだらけ。野放図に伸びた秋桜は、電車内で股を広げて化粧している娘っ子のようである。(水)
この記事へのコメント