月天心人の心の深き井戸 藤野十三妹
『この一句』
「月天心」ときたので、「おっ、今回は蕪村風かな」と思ったけれど、人間の心の中を探るような一句であった。作者は「楽劇」で知られるワグナーの研究家で、毎夏、バイロイト音楽祭へ出かけて行き、帰ってくると「お金、遣い過ぎてなくなっちゃった」と嘆いている魔女風の女性である。
作風はおおよそ難解で、おどろおどろしいと思い込んでいたが、今までの句を読んでみると、そうでもない。時にはまともなのもあって、句会では「へえ、これが彼女の句?」なんて声も聞こえてくる。自分の俳句の世界を、みなさんに分かってもらえるようにと、心掛けているのかも知れない。
この句、月が中天にある。月光の降る深夜、心の井戸を覗いたら、自分の顔が写っていた、とでも言うのだろうか。それなりではあるが、分かり易さを類型に求めているような気がする。自分本来の流儀が薄れてはつまらない。五郎丸のように一心に、「えい」と蹴ってみたら、なんて考えている。(恂)
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