かまきりの頭かしげる昼下がり 吉田 正義
『季のことば』
蟷螂(とうろう)は森にも野原にも庭にもどこにでも居る。両前足の形から「カマキリ(鎌切)」と名づけられ、斧を振りかぶる恰好にも見えるので「斧虫」とも呼ばれる。また、得物を狙う時に鎌を畳んだ両前足を顔の前で合わせる姿が祈っているようなので「祈り虫」「拝み虫」という名前も持つ。秋になると交尾産卵のため活発に活動するので、秋の季語になっている。
向う気が強くて、自分より大きなバッタやトンボ、時には蜥蜴の子どもや蛙まで襲うことがある。葉陰などにじいっと待ち、得物が近づくと上半身直立、両前足で拝むようなボクサースタイルを取る。前足が届く範囲に得物が入るや、瞬間的に鎌を振り下ろして得物に打ち込むと同時に、強靱な牙でがしっと相手の急所に食いつき、がりがり貪り食う。俊敏かつ獰猛なハンターである。
この句はカマキリが頭をかしげているという、至極のんびりとした秋の午後の情景だが、実は修羅場が始まる寸前の静けさなのかも知れない。こんな風に、何事も無いような顔をするのも蟷螂の得意技の一つ。虫もだまされるが、俳句など作ろうという人間もころりとだまされる。(水)
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