突然の訃報疑ひ月睨む   高橋 ヲブラダ

突然の訃報疑ひ月睨む   高橋 ヲブラダ

『この一句』

 幼馴染みの同級生か同期入社か、とにかく青春時代を共に過ごした友人が死んだとの知らせが突然入ったのだ。昔風に言えば肝胆相照らす仲であり、莫逆の友である。
 ここ数年は職場を異にし、住む処も違って、昔のようにしょっちゅう呑んだり食ったりすることはなくなった。しかし、時折電話をしたり、共通の友人から様子を聞いたりして、お互いに気持はいつでも通じ合っていると感じていた。病気にかかったという話も聞いていなかった。
 それなのに、一体どうしたと言うンだ。思わず天を仰いだ。満月が煌々と輝いていた。
 「月」の句としては非常にめずらしい詠み方である。俳句で名月と言えば「眺め」たり「仰ぐ」のが普通で、「睨む」というのは尋常ではない。訃報というものは大概は突然だから、ここまでは平凡なのだが、月を睨むという措辞でこの句は存在理由を確実にした。(水)

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