秋の空雲を追ひかけぶらり旅 大平 睦子
『この一句』
俳句づくりは無駄な言葉を削ぎ落として行く作業だとよく言われる。その点からすると、この句はまだ削ぎ落とし方が足りないと言われるかも知れない。「秋の空」と来て「雲」と続くところに重複感というか、無駄がありそうな感じがするからだ。しかしこの句は句会では結構人気があった。それはいかにも気持が良さそうな句だからであろう。
この忙しい世の中、すべてが効率優先で、旅までも旅行会社が作ったコースに乗って行くことが多い。それが便利だし、しかも自分で切符を買ったり宿を予約したりするよりも、大抵はずっと安く上がるから、どうしてもお手軽なパック旅行になる。
しかしこの旅は違う。漂泊の思いやまず、片雲の風に誘われるように、ぶらりと当て処も定めず出かけたというのだ。恐らく作者だって実際にはこんな旅はしていないのだ。秋空を見上げているうちに、ああ、あの雲を追いかけてどこまでも行きたいなと、気分だけを旅立たせたのだ。誰もがそうしたいなあと思っていることを詠んでくれた。少々の重複感など消し飛んでしまう。(水)
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