称名寺月の出を待つ池の端 藤村 詠悟
『この一句』
称名寺は横浜市・金沢文庫にある真言律宗別格本山の名刹。鎌倉幕府の有力御家人金沢北条氏一族の菩提寺で、鎌倉時代には浄土式庭園と三重塔、七堂伽藍を配置した堂々たるお寺だったが、今は赤門、仁王門、金堂、釈迦堂、そして復元された阿字ヶ池がばらんばらんな感じで残っているだけ。それでも寺域内の県立金沢文庫、背後の金沢三山の散策コースを含め、市民のこよなき憩いの場になっている。
廣重も描いている名勝「金沢八景」の一つ「称名の晩鐘」の釣鐘は今も健在。しかし、なにせ住宅密集地だけに、以前は自由に撞かせてくれたのに、今は御法度とか。とはいえ春は梅、桜、夏は池畔の薪能、そして秋の月見と楽しいことはいろいろある。
作者は称名寺のすぐ近くに住んでいるから、散歩がてらしょっちゅう出かけているようだ。金堂を背にして阿字ヶ池の畔に佇み、月の出を待つ。この句はそうした優雅な月見の、ゆったりした気分が伝わってくる。今年の十五夜は明後二十七日の日曜日。はてさてお天気が気になる。(水)
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