名月や隣家隣家の隙間より   鈴木 好夫

名月や隣家隣家の隙間より   鈴木 好夫

『この一句』

 住宅密集の日本の大都市の十五夜風景で、思わずにやりとさせられる。一軒の家を壊してその後に四軒も建てる。家と家の間は身体を横にして擦り抜けられるかどうか。窓から手を出せば隣の人と握手できる。そのくせ隣に住む人の素性は全く分からない。たまに顔合わせても黙礼を交わすくらいだ。
 小林一茶の「涼風の曲りくねつて来たりけり」に相通ずるユーモアとペーソス漂う句である。ただし、一茶の頃の江戸の下町は長屋で、井戸も便所も共同だから、否が応でも近所付き合いをしなければならなかった。お互い私生活も筒抜けだが、相身互い、助け合い精神は旺盛だった。花見も月見も長屋の気の合う同士が仲良くやった。
 今や、向こう三軒両隣との物理的距離は同じでも、精神的距離はぐんと遠くなった都会暮らし。月見も一家だけで、隣家との隙間から覗くようにして見る。右のお隣さんの壁と庇、前のお隣さんの屋根とで夜空が複雑な形に仕切られ、その間に真ん丸お月さんが顔のぞかせている。嬉しくなって「ようこそ」と盃を上げる。(水)

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