清流に紅を写すや曼殊沙華    後藤尚弘

清流に紅を写すや曼殊沙華    後藤尚弘

『季のことば』

 曼殊沙華(彼岸花)は奇妙な植物である。九月の初めに葉も枝もない茎だけが地面から伸び出して、ちょうど秋の彼岸の頃、焔を思わせる赤い花を咲かせる。花期は十日ほどだろうか。咲き終わると花も茎もなくなり、やがて水仙のような葉が地面近くに低く生え、それも春過ぎには無くなってしまう。
 かつて隣家から貰った曼殊沙華の鱗茎(球根状のもの)を一つ、素焼の鉢に埋めたままにしていたら、いつの間にか鉢全体に鱗茎がぎっしりと詰まっていたので仰天した。園芸に詳しい人によると、素焼鉢だと破裂することもあるそうだ。この花はそんな凄い生命力で、子孫を増やしていくのだろう。
 曼殊沙華の群生地に見物客が押しかける季節になってきた。この句の曼殊沙華は、澄んだ流れの岸辺に勢力圏を広げてきたのである。対岸から見ると、水に紅色が写っていたのだろう。流れだから、花の形は見えず、水面に紅がちらちらしていたはずだ。秋に出会う日本の風景の一つと言えよう。(恂)

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