梅雨冷や庭に獣の入りし跡      廣上 正市

梅雨冷や庭に獣の入りし跡      廣上 正市

『この一句』

 深く考えもせず読み過ごしてしまった句であった。しかし「何とも寒々とした感じを覚えた」という感想を聞いたとたん、急に身に迫るものがあった。梅雨の時期だから庭の土は柔らかい。動物がやって来れば足跡を残し行くはずだが、そんな理屈を超えて生じる不可解な感じは何だろう。
 人間は農業を始めてから定住し、所有地に柵を囲って暮すようになったという。羊などをたくさん飼い、草を求めて歩いていた生活と違って、土地を守り、侵入者を防がなければならない。作物をため込んで一年を同じ場所で過ごすとなると、動物だけでなく、人間までが食料を狙って攻め込んでくる。
 「戦争はこうして始まった」と説く学者がいる。昔、大学の講義で聞いた時「そんなものか」と思ったが、いまそのミニ版が日本の各所で展開されている。作者は趣味の農業を通じて、人界への侵入者に敏感になっておられるのだろう。足跡から推理すると、庭に入ってきたのはハクビシンらしいという。(恂)

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