かたくりの花のゆらぎの静けさや   和泉田 守

かたくりの花のゆらぎの静けさや   和泉田 守

『季のことば』

 三月から四月、ブナやナラ、クヌギなど落葉広葉樹林がようやく芽吹き始める頃、林床のふかふかした腐葉土の間から、緑に紫の斑紋のあるカタクリの葉が二枚のぞく。間もなく10センチほどの赤味がかった花茎が伸び、薄紫の反り返った六弁花を開く。まだ辺りは一面黒褐色の中で、可憐な片栗の花は実に印象的である。
 北海道から本州全域、九州、四国の一部の山林に自生するユリ科の多年草で、昔は珍しくもない植物だったようだ。ところが江戸時代以降、その花が可愛らしい故に観賞用に採取され、また、根っこから良質の澱粉(片栗粉)が取れるとあって乱獲され、昭和時代には希少植物になってしまった。近年、保護、栽培育種されてまた復活、各地に「片栗の名所」が出来ている。
 やわらかな花びらと花茎は、繊細で折れやすい。小さいながらにしっかり立ってはいるのだが、無神経な人の足音には震えおののく。本当は誰にも見られず、物音一つしない奥山の陽だまりに、ひっそりと咲くのが似つかわしい花である。この句はそうしたカタクリの花の様子をよく伝えている。(水)

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