溜池に満満の水つばめ呼ぶ   堤 てる夫

溜池に満満の水つばめ呼ぶ   堤 てる夫

『季のことば』

 三月末から四月初旬、里山の背後の中程度の高さの山々の雪が溶けるころ、南の国から燕が次々にやって来る。去年の古巣を夫婦して繕い、すぐに産卵・抱卵し、雛が孵ると虫を口いっぱいに含んだ二羽が交互に戻っては食べさせる。一切の雑念無く、ひたすら雛の口に餌を運ぶ。その様子は神々しいほどである。
 ちょうど燕がやって来て雛を孵す頃、農村地帯は田圃の準備が始まる。代掻きが行われ、整えた苗代に種籾を蒔く。用水路の点検・補修が行われる。そしてその上流の溜池は山からの雪解け水を受け止め、いつでも田圃に供給できるように、岸辺まで満満の水をたたえる。
 春の陽差しに温められた溜池には、いろいろな虫どもが一斉に生まれ、水面を飛び交う。親燕は待ってましたと縦横無尽に飛び、口を開けて滑空しながら虫を捕らえる。
 「溜池に満満の水」というのが、とてもいい。仲春の田園ののどかで豊潤な雰囲気を感じさせる。(水)

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