蕗の薹庭から摘みて友来る       高井 百子

蕗の薹庭から摘みて友来る       高井 百子

『季のことば』

 家を訪れた友人が、門か木戸から入って庭を通り、そこで蕗の薹(とう)を摘み、「はい、これ」と作者に手渡した、というのだろう。この句を見たとき、どんな家の、どんな庭なのだろう、と考えてしまったが、作者が明らかになって事情が判明した。これは長野県上田にあるご主人のお宅でのことらしい。
 ご夫妻の生活スタイルは別に置くとして、私が知りたいのは蕗の薹のその後である。蕗の薹なら一個でも使いようによって何人もが口にすること出来よう。刻んで味噌と和えれば、少しずつつまんでも乙な酒の肴になる。しかし私なら細かく刻んで味噌汁にパラリとかける、というのを選ぶだろう。
 五十年余り前、山梨県の親戚の家でしばらく過ごしたことがあった。春先のこと、行商のおばさんが来て、家の人に「はい、これ」と蕗の薹を一つ手渡した。峠道で摘んできたのだという。それを刻んで振りかけた味噌汁の香りが未だに忘れ難い。句の蕗の薹は、どのように食されたのだろうか。(恂)

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