新築の覆ひ外して春日中   今泉 恂之介

新築の覆ひ外して春日中   今泉 恂之介

『この一句』

 突拍子も無いようだが、この句を見た時に「石垣山一夜城」の話を思い出した。天正18年(1590年)春、小田原征伐に繰り出した豊臣秀吉が小田原城西方3キロの笠懸山(石垣山)に城を築いた。小田原城側の樹木をそのままに土木建築工事を進め、わずか80日で天守閣を持つ本格的な城を築き、完成と同時に樹木を切り払い、覆いのムシロを取り払った。谷を隔てた小田原城からは、あたかも一夜にして城が立ちはだかったように見えた。籠城の戦士たちの驚きはいかばかりであっただろう。
 庶民の住宅とて同じである。建築中の建物の回りには足場が組まれ、ものが四散しないように覆いが掛けられている。完成とともに足場が外され、覆いが取られる。その一瞬は劇的だ。
 新築の建物はまさにぴかぴか輝いており、見守る人たちは一斉に感嘆の声を上げる。そこに住む親子のはじけんばかりの笑顔が、春陽を浴びて光っている。これぞ「我らが城」の完成。喜びあふれる様子がまざまざと伝わってくる心地良い句である。(水)

この記事へのコメント