すみれ咲く立つも揺れるも風まかせ   篠田 義彦

すみれ咲く立つも揺れるも風まかせ   篠田 義彦

『季のことば』

 「山路来て何やらゆかしすみれ草」という芭蕉の名句を引くまでもなく、昔から日本人に好まれた春の野の花である。ずっと大昔、『万葉集』にも「春の野にすみれ摘みにと来しわれぞ野をなつかしみ一夜ねにける 山部赤人」とうたわれている。おそらくこの歌を取って詠んだもの(本歌取り)であろう、山崎宗鑑と共に俳諧の始祖と言われる荒木田守武は「近けれど菫摘む野やとまりがけ」と詠んでいる。
 濃紫の可憐な五弁花は一センチあるかないかの小ぶりで、野歩きの時など知らずに踏みつけてしまったりする。しかし、か弱そうに見えて菫はなかなかしたたかで、ちょっと踏まれたくらいでは一向にへこたれず、いつの間にか立ち直っている。
 この句も菫のそうしたところをうまく詠んでいる。強いも弱いもないのだ、菫はただ風の吹くままだと言う。作者の理想とする生き方が裏打ちされているのかも知れない。(水)

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