最終版終わるや屋台おでん酒   直井 正

最終版終わるや屋台おでん酒   直井 正

『この一句』

 最終版とは新聞の最後の版のことである。朝刊の場合は午前一時ごろに最終版の締め切りとなり、その後に仕事を終えた各局、各部の人たちが空腹を満たすために、社の周囲に店を開いている屋台を目指すのだ。新聞社OBの古手には懐かしい思い出だが、今ではもう見ることの出来ない風景である。
 この句、「終わるや」に一つの意味がある。「や」は切れ字ではあるが、「終わるや否や」の意味がもちろん含まれている。午前一時を過ぎればたちまち人々が集まり、なじみの屋台を取り囲む。新聞社が三つも集まっていた東京・大手町では、各社の記者がいっしょになり、「おでん酒」で気勢を上げたりした。
 各社間の締切時間協定がなかった頃は、屋台での騒ぎが明け方まで続くことも稀ではなかった。やがて早朝出勤の人が来て、「おー」と手を振って挨拶している人もいた。傍目にはばかばかしい行状と言えるだろう。しかし新聞社OBの一人である私は、この句を「心の俳句館」に収蔵したいと考えている。(恂)

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