年惜しむせめて背筋は高倉健     杉山 智宥

年惜しむせめて背筋は高倉健     杉山 智宥

『この一句』

 この年末、高倉健はおそらく、数千の俳句に詠まれたに違いない。男の中の男を演じ切った稀代の名優である。それに亡くなったのはつい先日(十一月)のことだった。惜しむべき人として記憶も生々しく、それだけに「健さん」という類型の中に詠まれた句が多いのではないだろうか。
 しかしこの句は、明らかに類型を脱している。まず背筋に目を付けたこと、さらにそれを自分に当てはめたことだ。顔は仕方がない、せめて背筋は、というところに、一人の俳優を慕ってきた自分へのペーソスが感じられよう。名句・佳句の要素の一つ「言われてみればその通り」の句でもある。
 「中でも背筋が一番ピンとしたのは『ぽっぽや(鉄道員)』だった」と作者は語っている。全作品を観た上に、主要な作品をはっきりと記憶しているくらいでないと、こうは言い切れない。作者の記憶の中に高倉健への確かなバックボーンがある。追悼句は安易に作れない、と思うようになった。(恂)

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