ハゼ釣りの竿が縁取る東京湾   片野 涸魚

ハゼ釣りの竿が縁取る東京湾   片野 涸魚

『季のことば』

 「鯊釣」は大昔から江戸っ子にとって秋の遊楽の決まり物だった。春の「潮干狩」と共に、獲物は素晴らしいおかずになる。実益を兼ねた遊びとして、また季節を知らせる行事として庶民の喜びだった。芭蕉十大弟子の一人服部嵐雪に「はぜつるや水村山郭酒旗の風」という楽しい句がある。
 初秋仲秋の東京湾沿岸は、大げさに表現すれば鯊釣り竿がびっしりと、巨大な首飾りで海を取り囲むような状況になった。昭和三十年代までは見慣れた景色であった。
 やがて東京湾の都区内部分は言わずもがな、横須賀、横浜、川崎、さらには房総半島のかなり先まで、埋め立てや護岸工事で大変貌を遂げた。それに加えて川が垂れ流す悪水に湾内は汚れ、腐臭漂い、公害に強いハゼすら姿を消した。それが、最近また盛んに釣れるようになったという。嬉しい話である。
 少年時代を深川に過ごした作者にとっては、秋の声を聞くとすぐに思い出すのがハゼ釣り。「もう一度やりたいな」と傘寿の青年は遠くを見つめる表情を浮かべた。(水)

この記事へのコメント