深刻な話をいなす金魚かな      大下 綾子

深刻な話をいなす金魚かな      大下 綾子

『この一句』

 魚類は瞼(まぶた)を持たないから、目を閉じることができない。金魚ももちろん同じで、寝ている時も目を開いて、ゆらゆらと漂っている。夜遅くそっと家に帰り、「妻は寝ているかな」と気遣いながら居間に入ると、水槽の金魚に見つめられているようで、びっくりすることもある。
 金魚は猫や犬と同様、家族に近い存在である。この句の二人、たぶん夫婦は、ちょっと難しい話をしていた。考えが食い違って、対立がエスカレートしてくる。話し合いが口げんかのようになり、互いにまずいな、と思っている。すると水槽の金魚が泳ぎの方向を変え、大きな尾をゆらりと揺らした。
 夫が水槽に目をやり、言おうとした言葉を胸に収めた。妻も金魚の動きに気づいた。二人とも、つまらぬ言い合いをしていた、と気づいている。金魚は琉金だろう。ぷっくりと腹が膨れて動きが鈍いが、垂れた尾を翻して、夫婦の対立を解いてしまった・・・。うまく作るものだ、と思った。(恂)

この記事へのコメント