鉄剣の錆ごつごつと青嵐         田中 頼子

鉄剣の錆ごつごつと青嵐         田中 頼子

『この一句』

 錆びが全面に浮き上がったような古代の鉄剣と青嵐の取り合せである。句を見た瞬間、「アッ、いいな」と思ったのだが、しばらくして考えてみると、何がいいのか、どこが気に入ったのか、よく分からない。しかしこの句から受ける感覚は一向に変わらず、何かがひしひしと迫ってくるのだ。
 「この秋は何で年寄る雲に鳥」(芭蕉)という句がある。英文学者・福原麟太郎は、この句について「何だか分からないが、心に残る句だ」と書いた。俳人・石原八束は「この句は下に(芭蕉)が付いていなければ、名句でも何でもない」と評した。私は麟太郎派だが、八束派も当然、いるだろう。
 取り合せの句にはおおよそ具象と抽象が混在している。抽象性が深まれば深まるほど、受け手による感応の度合いに差が生まれてくるようだ。句会に出てくれば、ある人は激賞し、ある人は一顧だにしない、ということにもなる。人間の感覚は複雑怪奇。その結晶が俳句なのだろう。(恂)

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