煮て焼いて炒めて漬けて茄子の膳   直井  正

煮て焼いて炒めて漬けて茄子の膳   直井  正

『季のことば』

 句会では「茄子の食べ方をこれだけ並べるとは、珍しい句ですねえ」(庄一郎)と言われたが、確かに重宝な食材である茄子の特質を遺憾なく詠んだ。茄子はインド原産、奈良時代に中国経由で日本に入り栽培され始めた。野菜の端境期となる真夏にもよく生り、日本人の好みにも合って、たちまち全国各地に広まった。しかも日本人の得意とする改良技術によって優れた品種が次々に生まれ、室町から江戸時代に入る頃にはまるで日本古来の野菜のようになった。
 料理法もあれこれ考案された。中でも「鴫焼き」なぞは傑作である。別にどうという調理でもない。丸ごとあるいは縦二つ割りにした茄子に串を二本刺して、紫紺の肌に油を引いて火に炙る。途中で味醂を少々混ぜた味噌を塗りつけてまたひと炙りし、好みで胡麻や粉山椒、七味唐辛子をかける。ただこれだけのものだが、すこぶる美味い。この他、小茄子の塩漬け、糠漬け、塩揉み、焼茄子、煮付け、炒め物、天ぷらとあらゆる調理法に合う。
 現代俳句は真面目一方に傾いて、こういう俳諧味に富んだ句があまり出て来ない。その意味でもすこぶる珍重すべき句である。(水)

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