老犬の息遣ひ聞く薄暑かな   山口 斗詩子

老犬の息遣ひ聞く薄暑かな   山口 斗詩子

『この一句』

 薄暑と愛犬とは合性がいいらしく、似たような句がたくさんある。しかし、それらを「類句あり」と切り捨てるのは人情を解さぬ朴念仁である。こういう取り合わせは何百年にわたって、寄せては返す波の如く詠まれる素材であり、その波の形が千変万化するように、作者の思いがさまざまに揺れ動く様子を読み取れば、そこにまた新たな感慨も生まれる。
 これは少々暑さを感じるようになった頃、足取りの覚束なくなった愛犬を散歩に連れ出したところであろうか。ほんの数十メートルで早くもぜいぜい喘ぎ始める老犬を気遣っている作者の心配そうな顔つきが浮かんで来る。
 恐らく十数年共に暮らして来たに違いない。人語は喋れないが、こちらの言うことはかなり理解出来るようになっている。こちらも鳴き声、しぐさ、息遣いでどんなことを訴えようとしているのかがかなり分かる。「そうかい、そうかい。もう歩きたくないのね。たまには外の空気もと思ったんだけどね」なんて言いながら抱き上げる。人と犬との老老介護である。(水)

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