花冷えや客が列なす鯛焼屋   石黒 賢一

花冷えや客が列なす鯛焼屋   石黒 賢一

『季のことば』

 「花冷え」は今や季語と言うより、日常会話になっている。これもテレビの天気予報が人目を引こうと映像に凝ったり、ウンチクを傾けるようになったせいではないか。天気図と一緒に、夜桜の下で襟かき合わせる美人が映し出されたりすると「花冷えだなあ」と納得してしまう。
 染井吉野が東京近辺で咲く3月下旬から4月上旬、長野以北の5月上旬、時として10℃を下回る寒さに襲われる。洒落た春衣でおめかししたはいいが、くしゃみに鼻水では台無しである。行ける口なら熱燗の花見酒で内側から温めることもできるが、下戸やご婦人方はどうしようもない。もう色気どころではなく、後片付け用に持って来たゴミ袋を貫頭衣のようにすっぽりかぶっているオバサマもいる。そこへまあ何というタイミング、屋台の鯛焼屋が現れた。たちまち行列ができた。
 とても面白い写生句なのだが、困ったことに「鯛焼」「鯛焼屋」は冬の季語。鬼の首でも取ったように「季重なり」と言う人もいるだろう。しかし今では鯛焼は一年中売っているから季節感は無くなっている。むしろ「花冷え」などには打って付けの小道具とも言えるのではないか。(水)

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