鳥帰る学校の上雲の下      植村 博明

鳥帰る学校の上雲の下      植村 博明

『この一句』

 「空間」のイメージを、これほどはっきりと表現した句は珍しい。学校の上、つまり校舎の上に空間が広がっている。そして雲の下である。もし上空が晴れていたら、空間は限りなく広がるが、雲の存在が範囲をきっちり定めた。北を目指す渡り鳥の群が、その間を飛んで行くのだ。
 学校は小学校か中学校だと思う。しかしその上空を眺めているのは生徒ではなく、定年を過ぎた、すなわち私のような高齢の俳句愛好者ではないだろうか。若い頃だとしみじみと空を眺めるようなことはなかったのに、いまは昔の木造校舎を思い出しながら、母校の上を行く鳥を見つめている。
 鳥の群れは次第に小さくなり、目を凝らしても確認できなくなった。見つけて視界から消えるまで僅か一分足らずだ。鳥たちはすでに雲に入ったのだろうか。半世紀以上も前の校舎は消え、眼前には立派なコンクリート造り三階建ての校舎が見えるばかりである。不意に「時空」という語が浮かんできた。(恂)

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