若草の顔出す土手を万歩計   井上庄一郎

若草の顔出す土手を万歩計   井上庄一郎

『この一句』

 「お元気ですね」と言われると、満更でもない嬉しい気分になる。しかし、七〇代後半ともなると、身体のあちこちの衰えをはっきりと自覚させられる。ほんの少しの段差に空足を踏んでよろめいたり、若い頃ならなんなく除けられたものにぶつかったり、不意に後ろから声をかけられて振り向こうとした途端に首筋に痛みが走ったり・・傍は気付かぬちょっとしたことなのだが、本人にしてみれば「ああ情けない」と、落ち込むきっかけになる。
 しかし、この句の作者のように八〇代後半ともなると、そういう悩める時期はとっくに通り越して「あるがまま」の心境になるようだ。喩えればヴィンテージカーを走らせている気分であろうか。急発進、急加速など乱暴な扱いをしなければまだまだ十分走れる。今どきの車のように機能一辺倒ではないだけに乗り心地は上々である。
 ただ普段の手入れが肝心。今朝も馴染みの河原の土手を万歩計を付けて、いつものペースでいつもの距離を歩む。萌えだした若草が生気を与えてくれるようである。(水)

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