蜃気楼消えて浜辺の人帰る   植村 博明

蜃気楼消えて浜辺の人帰る   植村 博明

『この一句』

 浜辺にはたくさんの人が蜃気楼の出るのを辛抱強く待つ。おしゃべりしたり、本を読んだり、スマホでゲームをしたり・・・。「出たぞ」と誰からともなく声がして、皆一斉に真剣にその方向に目を凝らす。蜃気楼というだけあって、船と言われればそうだとも思えるし、楼閣と思えばそうも思えるし・・・。十分もするとすーっと薄れて、あとはのたりのたりの春の海。
 蜃気楼と言えば富山県魚津市。3月下旬から6月上旬にかけて、魚津港は蜃気楼見物客でにぎわう。海中から出て来た数千年前の杉林「埋没林」と「ホタルイカ」、それと極め付けの「蜃気楼」で町興しをやっているのだから、地元がこの主役にかける期待は大きい。しかし、いつ出るか分からない。シーズンの約80日間で、「ぼんやりしたのが見えた」というのを入れても15日あるかないかというから、まことに頼りない。
 わずか数分でも蜃気楼が見られた人は幸運。上気したような顔で帰って行く。出たのか出なかったのか、実際に見たのか見なかったのか、すべては蜃気楼。そんな雰囲気をしれっと詠んでいて面白い。(水)

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