猫の恋鎮守の森に炎上す         深瀬 久敬

猫の恋鎮守の森に炎上す         深瀬 久敬

『この一句』

 日経新聞の「私の履歴書」で、市川猿翁(先代猿之助)が「歌舞伎は嘘の付き方が大胆不敵」と語っている。「嘘と本当をこき混ぜて真実以上の真実をつくる」のだとも言う。俳句にも当てはまる、と思った。特に江戸時代の俳句には歌舞伎的なものがあり、いまそれが失われてきたような印象もある。
 例えば、と蕪村句集の牡丹から五句を拾った。「閻王の口や牡丹を吐かんとす」「方百里雨雲よせぬぼたむ(牡丹)かな」「日光の土にも彫れる牡丹かな」「牡丹切つて気の衰ひしゆふべかな」「虹を吐いてひらかんとする牡丹かな」。解釈は省くが、大げさであることは一目瞭然だろう。
 恋猫の鳴き声は凄い。最近は聞く機会が少なくなったが、かつては「ウォン、ギャオー、ギャー、ギャー」と、この世のものとも思えぬ大合唱を耳にしたものだ。これを「鎮守の森に炎上す」と詠んだのが面白い。「炎上するごとく」ではダメだろう。平然と大げさな嘘をつく。嘘が真実以上の真実をつくる。(恂)

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