床走る冷凍鮪糶市場       大熊 万歩

床走る冷凍鮪糶市場       大熊 万歩

 保冷室から出たばかりの、粉を吹いたように凍ったマグロが、床の上を走っていく。一番値の高いクロマグロだと重さは数十キロから数百キロまで。冷凍のマグロはエラに穴が開けられている。威勢のいい男衆がそこに手鉤を引っ掛けてビューと滑らせ、糶(せり)場まで運んでいくのだろうか。
 かつて大型回遊魚の研究者から聞いた話。大昔、マグロの先祖は陸地に近くの海に住んでいた。やがてイワシなどの魚を追いかけ、外洋に出て行く。広い海域を猛スピードで縦横に泳ぎ回らなければならないので、紡錘形と呼ばれるあの体形を、何百万年もかけて作り上げていったのだという。
 それが今や、市場の床をロケットのように走っていく。一匹ずつ整然と糶の場に並べられると、電動のこぎりで尻尾を切り落とされる。その切り口の色や肉質がマグロの価値を決め、キロ何万円という値で競られていく。活気にあふれる風景も、やがて悲しき魚市場、なのかと思う。(恂)

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